スピニング(へら絞り)加工とは?
スピニング加工とは、回転する成形型(マンドレル)に板状や管状の素材(ブランク・ワーク)を
加工ローラやへらで押し付けて成形する塑性加工の一手法です。

金属を材料とするシェル状の製品の成形加工法として、家庭用容器、装飾工芸品、照明器具、通信機器(パラボラアンテナなど)、ボイラ、タンク、ノズル、エンジン部品、タイヤホイールなどの部品・製品の製造に広く用いられています。
この加工法は熟練作業者による高度なものづくりの技能としても近年注目され、例えばH2ロケットの先端カバーなどがこうした手作業(へら絞り)によって製作されたことが広く知られています。
スピニング加工の特長
スピニング加工の特長としては、下記が挙げられます。
- プレス成形と比べ複雑な形状の製品が成形可能
- 成形型が1個のみのため加工の準備が容易
- 加工力が小さいため設備がコンパクト
- 切削加工などと比べ材料が節減できる
- 加工精度が高く、製品の表面性状も良好
- 加工条件によって、伸びによる素材減肉や肉溜まりが発生する

すなわち、ラピッドプロトタイピング(b. 敏速【rapid】に試作【prototyping】すること)やネットシェイプ(d. 削らず熱を加えず複雑な部品を最終形状に成形できる加工法)といった加工技術における最近の動向と合致した加工方法といえます。
また、塑性加工において近年注目を集めている逐次成形法(インクリメンタルフォーミング)の一種として位置づけることもできると考えられています。

合金ALパイプ材をネッキング加工により肉溜めをしたサンプル
また、スピニング加工のデメリットとしては、加工特性上の素材延性(伸び)による素材減肉や素材の表層移動などによる肉溜まりが発生します(f.)。
この現象はスピニング加工の宿命的要素であり、技術者の経験と技能によりコントロールされています。
この減肉と肉溜まりの現象は、製品の強度などから見るとデメリットとしてとらえられますが、食品機器の鍋・釜など、減肉による容器の熱伝導率を利用したい物や、または意識的に肉溜めをすることでネジを切りたいなどの用途においては、この現象が逆に利点へと変わります。
スピニング加工データ

データ | |
---|---|
材質 | SUS304CP 2.0t×φ365 |
寸法 | φ180×H150 |
用途 | 真空遮断器用シールド |
加工時間 | 2~3(min)(スピニングのみ) |
しかしながらこの加工技術は、特に自動機械しぼり(NCスピニングマシン)においての教示作業(スピニングマシンへのデータ入力=ティーチング)など、現在でも熟練作業者の技能に依存するところが強く、また人力による手絞り作業においても経験と感性により精度や加工時間に個人差が大きく現れます。
これらの問題を解決するため、当社では熟練作業者による技術者に対してのOJTでの訓練などに常日頃から力をいれ、今日まであらゆるジャンルのお客様の要望にお答えしております。
また、中間・完成工程における客観評価においては、作業者の感(かん)や経験のみに頼ることなく、ダイヤルキャリパー、超音波厚み測定器、デジタルマチック装備のテンプレートなどの各種計測器を用いて、日々製品の精度向上に努めております。
もちろん、それらの製品の出荷検査は当社の品質管理部門が厳正に行っております。
スピニング加工の応用加工事例

パラボラアンテナ曲面精度測定
スピニング加工は“回転成形”であることから、ブランク・ワークを回転させることで、あらゆる手段を用い成形をすることが出来ます。
この応用加工特性は、他の塑性成形技術と比べ独特であり、スピニング加工がさまざまなジャンルで活躍をしている理由でもあります。
下記例は、数ある加工方法の中のほんの一部の加工例です。当社には創業65年余りの長きわたる歴史の中で生み出したさまざま加工実績がございます。
もし、ご興味がございましたら是非お問い合わせください。
ネッキング
スピニングまたは溶接された円筒、円錐筒および各種のパイプをさらに加工する方法。
【製品例】球型照明器具、機械部品化工機部品等
プレス成形品
割型使用
特殊スピニング成形品
中子型使用
円筒溶接
分離型使用
スピニング成形品
NC制御
シャーニング

鋳造された高力アルミニウム合金を押延加工した時の例
(中間焼鈍1回)
肉厚パイプ等の押し延し及びスエージングする加工方法。
【製品例】各種容器及び特殊信号筒等
バルジング
溶接等で作られた円筒及び円錐形の製品を内部からスピニングする加工方法。
【製品例】送風管、送風機ベルマウス、各種ノズル、その他流体機器部品等
1.6tの銅板を所用の扇形に切断し、ガス溶接で
円錐筒にしたものを中子型に入れスピニングを行う例溶接円錐筒を2個のローラーでスピニングする例
カーリング

成形された製品の縁を外側または内側に巻き込む加工方法。
ビーディング

成形された製品の外周及び底部に補強その他の目的で絞目を入れる加工方法。
- 情報提供協力
- 独立行政法人産業技術総合研究所
先進製造プロセス研究部門 難加工材成形研究グループ主任研究員 荒井裕彦様
参照:https://staff.aist.go.jp/h.arai/spin_j.html